孤独なセルフケアに支援を

ラインケアという言葉をご存知ですか?

管理監督者が職場環境を把握と改善、部下からの相談対応を行うことです。これは職場のメンタルヘルス対策を行う上で大切な4つのケアの1つです。

4つのケアとは、以下の通りです。
1.セルフケア
2.ラインケア
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
4.事業場外資源によるケア

私が代表を務める当オフィスは、「4.事業場外資源によるケア」を担う場として利用して頂いています。

当オフィスを利用して下さる会社の中で、仕事上の悩みを抱える方の個人面談を行う以外にも、この「ラインケア」を担って頂いている上司の方にお会いする機会があります。

部下に不調が見られる時に、現場でその方をサポートされている上司と人事担当者と3人でチームを組み、その方への関り方だけでなく、周囲の社員さんにもできるだけ負担にならないような職場の環境づくりについても一緒に考えます。

またある時は、今後何かあった時のために、人事担当者を介して私に相談する敷居を低くするための「関係作りとしての面談」も行います。

社内にカウンセラーがいるとご存知ない方や、知ってはいても、どんな人かよく分からないのに、大事なことを相談して!と言われても、なかなか気軽には声をかけにくいかと。

なので、まずは顔見知りになっておくと、ちょっとしたことでも、あるいはいざという時に、ためらわずに相談して頂ける環境づくりになると考えています。

この顔見知りになる場合の面談は、特に目の前に取り組むべき問題がない状況なので、むしろその部署の仕事内容や環境についてお話が伺える、貴重な場ともなっています。

現場の雰囲気に触れておくと、その部署の社員さんの相談にのる際も、その方の悩みが俯瞰して見え、必要なサポートが見えやすくなることがあるからです。

また同時に、自然と上司自身の部下との接し方やリーダーシップの取り方も垣間見え、上司という役割を越えたその方自身の人柄や個性が光る場でもあり、個人的にはとても興味深い時間でもあります。

ビジネス書が好きなこともあり、著名な経営者の経験談やリーダーシップ論などを読みますが、現場の上司の方のお話を伺っていると、人の数だけリーダーシップの取り方があり、部下との付き合い方があるなあと実感します。

本に書いているラインケアの方法などよりも、その方の性格的な強みを生かした部下との関わり方ができておられたら、それがその方流のセルフケアだとも思うのです。

部下の数だけ、求める理想のリーダー像・上司像があると思います。だから、「この上司は合わない」「苦手な苦手」といったお話もよく伺います。

部下と上司も人間ですから、結局は人と人との相性がモノを言う一面があるので、ラインケアも一概にこうすることがベスト!と正解があるわけではないと思っています。

しかし、やり方はいろいろであっても、はずしてはいけないポイントもあります。

早めに不調に気づくこと、そしてそこに目を配って、必要な時に相手(部下)にとって「ベストな人」を投入して情報収集を開始すること、です。

部下に異変が見られる時に、必ずしも上司自身が介入する(=話を聴きだす)ことがベストではないケースもあります。

もともとよくしゃべる職場のお母さん的キャラで、相手も何かあればすぐ話してくれる関係性なら、直接聞いたほうが早いかもしれません。

しかしそもそも、業務以外のプライベートな話をしたことがない無口なお父さんキャラで、相手も口下手な部下なら、その部下と付き合いのある同僚や部下を介して情報を集めたほうが、その社員さんの本音が見えてくるかもしれません。

ポイントは、自分のキャラと部下との関係性を考えて動くこと。そして誰がその部下と最も近く、相手に負担なく必要な情報収集をしてもらえそうか?そういう目で、ご自身の職場を見ておくことも重要です。部下のすべてを常に把握しておくことは難しいので、いざという時の情報収集のルートは前もって確保しておく、という感じです。

そして必要な情報を集めた上で、次に大事なのは行動(ケア)です。

その人をサポートするのに必要な人材(部下の同僚やさらに上の管理者・人事担当者など)と必要な情報を共有し、それぞれできるケアを開始してもらうこと。ここの立ち上げのスピードとネットワークづくりも、ラインケアの重要なポイントになります。

上司自身も仕事をしながら、そして他の部下も見守りながら、またある時は、自身も部下として働かなければなりません。大切ではありますが、セルフケアだけが仕事ではありません。

だからと言って、セルフケアが手薄になることも許されないのが、今の風潮です。セルフケアは、職場のメンタルヘルス対策の重要な役割として、責任と努力が求められています。

だからこそ上司のみなさん、孤独にラインケアを行わないでください。

できるだけ人を巻き込んで、セーフティーネットの網目をより細かくすれば、ケアされる側もケアする側も、より安心して安全に働き続けることが可能になります。

メンタルヘルス対策の大変さと責任の重さが、少しでも安心して部下を支える・会社の大切な人財として部下を育てる「やりがい」に転換できるよう、事業場外資源として事業場内に入らせて頂き、一緒にチームを組むことで今後も貢献していきたいと思っています。

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