先日、滋賀県臨床心理士会の産業領域の集まりで、職場のハラスメント、特にパワハラ防止法に関する話題提供をさせて頂きました。
企業に入らせて頂く上で、心理士も必ず勉強しておいたほうがよい法律で、私も今年の3月あたりから厚生労働省のHPや書籍を通じて学び、その情報をパワーポイントにまとめて、発表・共有させて頂きました。
企業で最近よく話題にでるパワハラ防止法ですが、大企業はすでにその施行対象となっており、中小企業でも、来年度からは企業としてパワハラ防止のための対策が義務化され、その教育や相談環境の整備が義務化されます。
パワハラによる自殺、労災、メンタル不調者。
こうした話題は、精神科クリニックでも職場でもよく耳にします。休職された原因を伺う時に、パワハラ上司の存在について語られることも少なくありません。パワハラは、産業領域で働く心理士の中でも非常に重要で、重たいテーマでもあります。
パワハラは、要するに「大人社会のいじめ問題」です。子どもの世界では、一応、学校や教育委員会、スクールカウンセラーや教育相談センターなど、様々な相談窓口・サポート体制が作られていますが、大人の世界・職場では、子どもの時ほど駆け込む先がありません。
大人は「自分で自分を守るのが当然」なのでしょうか?
子どもと同様、そのサポート体制だけでなく、そもそも「パワハラを許さない」という強い姿勢が、諸外国に比べると日本は希薄とも言われています。
パワハラという言葉も日本独特の言葉で、実は諸外国では、職場におけるいじめ・嫌がらせは職場のハラスメントとして統一されており、パワーと限定していないそうです。
最近ニュースで取り上げられている、公務員やオリンピック関係者の自殺のニュースを見ていると、パワハラ問題は、その職場の「心理的安全性」の低さを示していると感じます。
パワハラは「されること」はもちろんですが、「見ていること」によっても、とても深く傷つきます。面談の中でも、パワハラを受けている同僚を助けられなかった、と悩む方のお話を伺うこともこれまで多々ありました。
パワハラは、受けた個人だけでなく、その職場・組織の心理的安全性を脅かし、職場内のコミュニケーションの膠着し、ひいてはその組織への不信感を強める行為となります。結果として、組織全体のモチベーションに影響がでるのではないかと私は考えています。
最近、ビジネス書でもこの「心理的安全性」や「多様性」というキーワードがよく取り上げられています。これらの本では、この心理的安全性が高い、多様性を尊重し合える組織ほど、より強い・結果を出せるチームが作れるといった「組織論」の視点から、これらのワードを用いています。
しかし、私がこれらの本を読んだとき、その中で挙げられている組織的な「心理的安全性」「柔軟性」を高めるためのスキル・ノウハウは、結局、メンタル不調やハラスメントを生まないためのコミュニケーションスキルと同じだと感じました。
つまり、パワハラ対策は、メンタル不調者を生まないための対策と考えられがちですが、それだけではなく、その組織が「より健全に成長していくことにもつながる」ということだと思います。
「パワハラ対策を強化する」というと、その組織のマイナスな面が露呈するかのようなイメージに取られがちですが、結果を出せる「より強い組織を作るための対策」と捉えることはできないでしょうか?
組織の暗い・一部の側面にスポットライトを当てるのではなく、その組織の健全な部分が、より組織全体に広がっていくための「明るく前向きな全体的な取り組み」という視点。それが結果として、「パワハラを予防する」取り組みにも繋がると思います。
石井遼介氏の「心理的安全性のつくりかた」(日本能率協会マネジメントセンター)の本。ぜひ、パワハラ対策の視点で読んで見てください。きっと、パワハラ対策のイメージが変わると思います。
パワハラ対策に頭を悩ませている人事担当者におすすめしたい、一冊です。